2008年10月16日木曜日

朝日新聞社説

受信料値下げ―この機会にスリム化を

 NHKの09~11年度の経営計画が、異例ずくめの道筋で決まった。

 福地茂雄会長ら執行部の計画案は、地上デジタル放送への移行のための追加負担が必要なことが明らかになったことなどで、作成が遅れに遅れた。

 今月上旬にようやくまとまった計画案には、12年度以降に受信料を下げる方針も盛り込まれた。ところが、古森重隆経営委員長が「10%の値下げの明記」を主張して、差し戻した。

 執行部は「先が見通せない経済情勢で、4年先の約束は難しい」として、再び数字を入れない案を示した。だが、経営委員会も譲らず、「12年度から受信料収入の10%を還元する」と修正して議決した。

 受信料が下がるのも、経営委員会が経営計画に直接手を入れたのも、初めてのことだ。一律に値下げするのか、低所得の高齢者の支払いを免除するといった方策を組み合わせるのか。具体的な方法はまだ決まっていない。

 言うまでもなく、受信料の値下げで番組の質が落ちるようなことはあってはならないが、下がるのは視聴者にとって悪いことではない。執行部と経営委員会が緊張感を持って向き合うのも健全なことだ。

 だが、議論の焦点が「10%と書くか、書かないか」の攻防だけになったのはいただけない。受信料で運営するNHKはどうあるべきかという根本的な議論が抜け落ちていたからだ。

 公共放送としてこれだけは必要だという番組と、不要な番組をふるいにかける。そのうえで、組織をスリム化し、受信料を引き下げるというのが、本来のあり方だろう。

 今回議決された経営計画では、テレビとラジオの計8チャンネルのうち、衛星テレビ1波を減らすという。職員を報道・制作に手厚く配置しつつ、総数を減らすほか、いま17ある子会社を12~13にする目標も盛り込んだ。

 一方で、報道の強化、高品質な大型番組の提供、幅広い視聴者層に向けた多様で質の高い番組作り、放送局を地域を元気にする拠点に、国際放送の充実――といった目標も掲げられた。

 それぞれもっともな内容ではあるが、こうした分野をすべてNHKが手がける必要があるのか。民放との役割分担を考えた方がいい。

 そもそも、あれもこれもと手を広げて、どうやって「10%の値下げ」を実現するのか。受信料の取り立てに力を入れて総収入を増やすことだけで、値下げ分もまかなおうとするなら、筋違いだ。ここはスリム化を真剣に考えてもらいたい。

 その際、NHKには、外部の有識者や視聴者の意見、職員の声を幅広く集める組織を作ることを改めて提案したい。その場で、NHKの適正な規模と使命を問い直すべきだ。

グルジア紛争―収拾の動きを速めたい

 激しい戦闘が繰り広げられたグルジア紛争の「戦後処理」を話し合う国際会議が、スイスのジュネーブで始まった。事態収拾に向けた作業がようやく本格化してきた。

 戦火はやんだものの、紛争の発火点となった南オセチア自治州やアブハジア自治共和国の周辺にできた「緩衝地帯」にロシア軍部隊が駐留を続けていたが、それも先週には撤退を完了した。代わりに欧州連合(EU)の停戦監視団が入り、紛争が再び火を噴かないよう目を光らせる。

 ジュネーブ会議はEUや国連などが主催し、米国も加わる。だが、ロシアは独立を承認した南オセチアとアブハジアを正式参加させるよう主張し、グルジアが強く反発するなど、波乱含みの幕開けだ。

 グルジアは現在も、約5万人の避難民が家に戻れない状態にある。戦火に加え、独立派の民兵らがグルジア人の家財を略奪したり、放火したりしたことが大きい。現地の治安回復を急ぎ、きびしい冬が来る前に避難民らが帰還できるようにしたい。

 会議では、南オセチアとアブハジアの地位問題も取り上げられる見込みだ。ロシアが独立承認を撤回する可能性は小さく、逆にグルジアへの武器禁輸を主張するなど、議論は平行線をたどりそうだ。

 だが、グルジアが先に攻撃を仕掛けたとはいえ、だからいっきに独立承認だというのは飛躍がある。ロシアのパスポートを住民に出しておいて、攻撃されると「自国民保護」を理由に大部隊を送り込む。こんなロシアの手法を認めるわけにはいかない。

 同時に、旧ソ連圏で今回のような紛争が再び起きないよう、ロシアと欧米諸国がきちんと意思疎通をはかることも大事だ。旧ソ連諸国を「勢力圏」と見なすの はロシアの身勝手である。他方、大規模な侵略をたびたび受けてきた大陸国家ロシアの、伝統的な安全保障観への配慮はあっていい。

 この点で、ロシアとの対話はそっちのけで、グルジアやウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を急ごうとした米国などの勇み足は否定できな い。グルジアへの軍事支援を強め、ロシアとの緊張を高めることになったブッシュ政権の政策に、キッシンジャー氏をはじめ米国の国務長官経験者らからも批判 の声が出ている。

 ロシアのメドベージェフ大統領は、欧州諸国に新しい安全保障条約を結ぼうと主張している。具体的に何を意味するのかはっきりしないが、NATO優位が定着する中で、ロシアの発言権をもっと認めよとの狙いなのだろう。

 資源価格の高騰で力をつけたロシアの無理な注文は聞くわけにはいかないが、欧州の安定のためには対話に応じるのも手ではないか。

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