2008年10月23日木曜日

志野原生氏http://www005.upp.so-net.ne.jp/shigas/WELCOME.HTMより

陰徳善事


定年退官の前の年に見知らぬ学生から電話で勧誘されたのがきっかけで、母校京大の学生新聞の購読を始めた。若い世代の良識を紙面に見ることができる。
本年の年頭所感では精神の高揚を謳っている。
「世界を担う指導者になろう」「情熱を与える大学教育が必要」という見出しになっている。偏差値だけで無目的に入り、ところてん式に出れ る。いい大学に入れたら就職もまず困らない。だから大学は「レジャーランド」を通り越して「愚者の楽園」と化した。教官は学園紛争以来萎縮して、身をもっ て高邁な精神を発揚しようなんて気はない。ただただ安易な専門馬鹿に走るのみ。大学に学ぶものが自分の欲望だけに走ってどうする、民族さらに全人類に貢献 しようとする気概が無くてどうする、その理想を語らなくてどうする。
学生新聞は退化する大学に対して警鐘を鳴らしている。精神の生活に占める比重がこれほど軽い時代を、日本人は今まで経験したことがない。 神からの報復への怖れが遠のき、社会が不文律として持ち続けてきた枷-倫理観-も無実に近くなった。そして現世への欲望がどの時代よりも勢いを持つように なった。大学も大衆化して、いい意味での昔のエリート意識とか使命感などは、もう期待できないようになった。お説ごもっともである。
使命感どころでない。最近の、世間の耳目をそばだてている「汚い」事件は、殆どが最高学府に通う人、出た人たちによって起こされている。高級官吏の汚職、議員の悪徳、帝京大ラクビー部員日体大スケート部員の集団婦女暴行など弁解の余地もない。
こうなると、今や罪を憎んで人を憎まずなどと云ってはおれない。現在の刑法の成立時期はそんな理想が通ったかも知れないが、こと精神生活 に関しては、たがが緩むのに比例して、悪い方へ悪い方へと動く。刑の軽さが罪の意識の軽さに通じているとさえ思う。道徳が占めた地位を法で埋めなくてはな らなくなった。沖縄の米軍兵士の犯罪に対する刑罰が、アメリカ本土と比較され、軽すぎるとされてきた。顰蹙の度合いに応じて刑をもっともっと重くすべきで ある。刑法の精神の改定期に達している。
アメリカ・イギリスでは性犯罪者に対する満期後の再犯予防のための追跡調査と注意喚起をやっている。事件を起こした帝京大生、日体大生も 同様にすべきである。一部の弁護士に見られるような、犯罪者の人権に固執する言動は本末転倒である。その人達が錦の御旗のようにしてきたお題目、統制官僚 国家化、の危惧は今やはるかに遠のいた。
表題「陰徳善事」は、近江商人訓の一つである。今日の話にぴったりの標語である。ある菓子司に飾ってあった。そんな心掛けを使用人に教え 込んだ商家の心意気は、細々ながらでも今の我々に伝わっていると信じたい。倫理観は相伝せねばならない。相伝とは成人が若い世代に引き継ぐことである。教 官は常設の相伝する場を持っているという意味で非常に責任重大である。教室が白けようが、学生が集まらなくなろうがやらねばならぬ。倫理問題は専門外と他 人に押しつける人は教官とは云えぬ。私の経験では、専門の話より、その方の話を記憶してくれるものである。

('98/01/25)




朝日新聞社説

妊婦死亡―救急医療にもっと連携を

 大都会の救急医療に、ぽっかりと大きな穴が開いているようだ。

 東京都内で、具合が悪くなった出産間近の36歳の女性が七つの病院に受け入れを断られた。約1時間15分後に病院に運ばれて出産したものの、3日後に脳内出血で亡くなった。

 同じようなことが一昨年、奈良県でもあった。入院中の妊婦が重体になり、転院が必要になったが、隣の大阪府も含めて19病院に受け入れを断られ、やはり脳内出血で亡くなった。

 背景には、全国的な産科医不足がある。急な患者を受け入れる余力が、医療機関に乏しくなっているのだ。

 それにしても、医療機関がたくさんあるはずの東京で、と驚いた人も多かったのではないか。厳しい条件の中でも、なんとか急患を受け入れる態勢をつくるにはどうすればいいのか。今回起きたことを点検し、今後のために生かさなければならない。

 亡くなった女性は下痢や頭痛を訴えた。かかりつけ医の手に負えないことから、受け入れ先を探した。

 最初に連絡したのは、危険の大きい出産に24時間対応するために都内に9カ所置かれている総合周産期母子医療センターの一つ、都立墨東病院だ。

 ところが、墨東病院では産科医が減ったため、7月からは週末や休日の当直医は1人になり、急患の受け入れが原則としてできなくなっていた。

 この日は土曜日だった。1人だけの当直医は受け入れを断り、他の病院を紹介したという。紹介した病院にも「空きベッドがない」などの理由で次々に断られ、墨東病院は2度目の依頼で医師を呼び出して対応した。

 総合周産期母子医療センターは最後のとりでだ。そこが役割を果たせないようでは心もとない。産科医不足という事情があるにしても、東京都には急患に備える態勢づくりにさらに努力してもらいたい。

 いくつもの病院で受け入れを断られた背景には、都市圏ならではの要因もある。地方と違って医療機関が多いため、ほかで受け入れてくれると考えがちなのだ。

 そうした考えが、危険な出産に備える医療機関のネットワークが必ずしも十分には機能しないことにつながる。医療機関同士でもっと緊密に連絡を取り合うことに加え、ネットワークの中で引受先を探す司令塔のような存在をつくることも考えたい。

 もう一つ大切なことは、全く別々に運用されている産科の救急と一般の救急の連携を強めることだ。産科の救急で受け入れ先が見つからないときは、とりあえず一般の救急部門で受け入れる。そうした柔軟な発想が必要だ。

 医師不足を解消する努力はむろん大切だが、病院や医師の間で連携に知恵を絞ることはすぐにでもできる。

中国経済―世界を下支えできるか

 米国を震源とする世界同時不況が広がる中で、「世界の工場」中国の陰りが明確になった。国際経済を支えてきた柱の一つだけに、どこまでブレーキがかかるのかが心配だ。

 中国の国家統計局は、7~9月の国内総生産(GDP)実質成長率が昨年同期比9.0%だったと発表した。今年は年間で、6年ぶりに10%を割ることがほぼ確実になった。

 減速の大きな要因は輸出の縮小にある。大輸出先の米国の景気が落ち込むにつれて、繊維、玩具などをつくる沿海部で工場の閉鎖が相次いでいる。広東省では、閉鎖した玩具工場の従業員7千人が解雇され、数千人が未払い給料を求めて工場に押し寄せた。

 もともと北京五輪後には「五輪景気」の反動が来ると心配されていたが、世界同時不況が重なってしまった。かつては過熱が懸念された中国経済の大きな転換点になりそうだ。

 中国の減速は世界にとっても痛い。米国では金融市場の混乱が続き、景気の悪化はむしろこれからが本番だ。「少なくとも全治数年」との見方が広がる。米経 済が復調しても、以前のように世界中が対米輸出に依存するのは望ましくもなかろう。となると、どこが世界経済を下支えできるのか。

 日本は人口減少社会に入り成長力に陰りが見えるため、日本に期待する声は少ない。欧州連合(EU)への期待もあったが、金融危機が延焼して欧州経済もいま失速しつつある。

 期待されるのがBRICsとよばれる新興国、とりわけ成長著しい中国だ。いまやGDPで世界4位。2010年代には日本を、30年代には米国を抜 いて世界一になるとも予測されている。中国ほど潜在力をもつ国は見あたらない。同じ新興国でも、ロシアやブラジル、インドの経済規模は、中国の半分から3 分の1にすぎない。

 中国政府は経済発展を維持するために内需振興をめざす。当面の対策として、輸出のてこ入れもしつつ、農業補助金の拡大や中小企業への融資増、産業基盤や民生分野のプロジェクトへの投資などを進める方針を決めた。

 中国は毎年1千万人の新規雇用を確保し、成長の成果を貧困層へも広げて社会を安定させるために、毎年7~8%の成長を必要としている。政府が経済減速に歯止めをかけようとするのはそのためだ。

 巨大な人口と潜在的な成長力をもつ中国の動向は、いまや世界全体を左右する重みをもっている。その影響は、貿易や投資・金融の分野はもちろんのこと、資源エネルギー問題から地球環境の保全にまで及ぶ。

 成長を維持しつつ、社会的にも調和がとれ安定した経済へ移行していく。欲張った注文ではあるが、中国にはそんな姿をめざしてほしい。



毎日新聞

米大統領選:ペイリン氏逆風 公費で子供旅費、党が衣装代

22日、米オハイオ州グリーンで、支持者に冗談を言って舌を出すペイリン氏=AP
22日、米オハイオ州グリーンで、支持者に冗談を言って舌を出すペイリン氏=AP

 【ワシントン小松健一】米大統領選の共和党副大統領候補、ペイリン・アラスカ州知事が公務出張に子供を同伴し、費用を公費で支出させたり、自身の 衣装やヘアメークのために共和党に15万ドル(約1500万円)を負担させたことが22日、米メディアの報道で発覚した。財政支出のあり方が選挙戦の大き な争点になるなか、米CNNは一連の疑惑に絡めて「ペイリン氏がマケイン氏の足かせになっている」と指摘した。

 AP通信などによると、ペイリン氏は06年12月の知事就任後、3人の娘をニューヨークなどへの出張に何度も同伴し航空機代や宿泊費など計約2万1000ドル(約210万円)をアラスカ州の公費から支出した。

 ペイリン氏は8月末の共和党大会で副大統領候補に抜てきされる直前、アラスカ州に提出した出張報告書を修正し、子供も招待されたと書き加えたという。しかしペイリン氏を招いた複数の主催者側は米メディアに「子供は招待していなかった」と証言している。

 一方、衣装代は、共和党からニューヨークの高級店などに支払われたという。

 米世論調査機関「ピュー・リサーチセンター」の最新の調査でペイリン氏の「好感度」は9月中旬の54%から1カ月間で44%へと降下。一方で「好感が持てない」と回答する女性は54%と半数を超えた。


記者の目:雅子さまの行動、宮内庁に説明の責任=真鍋光之

 皇太子妃雅子さまは、大分県での第8回全国障害者スポーツ大会を欠席し、長女愛子さまの学習院初等科(東京都新宿区)の運動会を観戦した。皇太子ご夫妻のお世話をするトップ、宮内庁の野村一成・東宮大夫は二つの行事への出欠の背景に「病気」があると述べたが、プライベートより公務を重視してきた皇室にあって、雅子さまに対し「公務軽視」との批判が一部から出ている。

 今の雅子さまにとって遠出の公務は難しかったとは思うが、皇族の公私の問題を、病気を理由に簡単に済ませていいとは思わない。今回の雅子さまの行動について、宮内庁は詳細な説明をすべきだ。

 12日の学習院初等科の運動会。報道陣には愛子さまがかけっこをする場面が公開された。愛子さまに手を振り、カメラで撮影する雅子さま。母子のほ ほえましい光景だったが、皇太子さまはこの日、全国障害者スポーツ大会で大分県を訪問しており、精神障害者のバレーボール競技などを視察していた。本来な ら雅子さまも同行する公務だった。

 野村東宮大夫は3日の会見で、雅子さまが公務を休んで運動会を観戦することに対し「病気療養中」で「全体的な中身、総合的にいろいろ考えた結果。医師とも相談した」などと説明した。さらに「基本的には可能な中でのご活動ということ」と理解を求めた。

 だが私は、皇族の公私が絡むことを「病気だから」という理由であっさり終わらせようとする宮内庁の姿勢に納得できないでいる。

 皇室には、「私」より「公」を重視することを表した「天皇、皇族に私(わたくし)なし」という言葉があり、天皇、皇后両陛下はじめ皇族方は、公務を優先する姿勢を示している。

 公務とプライベートの兼ね合いについて天皇陛下は00年の誕生日会見で、「公務については、私も皇后も務めであればするのが当然だと思って過ごし てきました」と語った。翌年には「私どもは、やはり私人として過ごす時にも、自分たちの立場を完全に離れることはできません」「(公私の比重は)前者の方 に多く掛かっております」と公務優先の考えを述べた。

皇太子さまも04年の誕生日会見で「国民の幸福を一番誰よりも先に、自分たちのことよりも先に願って、国民の幸福を祈りながら仕事をするという、これが皇族の一番大切なことではないか」と話した。雅子さまは、療養前は皇太子さまと一緒に公務をすることが普通だった。

 野村東宮大夫は会見で「公務よりプライベート優先では」との問いかけに、「そういう見方もあるだろうが」と述べただけだった。天皇、皇后両陛下や 皇族方が積み上げてきた公務を重視するというあり方を、根本から覆すともとらえられかねない雅子さまの行動に対して、どう考えているのか。「公務軽視」の 批判がある中、丁寧に言葉を尽くすべきだろう。

 「病気」という理由についても説得力に欠けた。雅子さまは今年1月、冬季国体開会式で長野県を訪れて以来、泊まりがけの公務をしておらず、都内で の外出も少ない。このことからも2泊3日の大分での公務は無理だったのだろうと想像するが、野村東宮大夫の会見では、雅子さまが今、具体的にどのような状 態なのかまったくわからない。

 そもそも宮内庁は、雅子さまが全国障害者スポーツ大会を欠席し、愛子さまの運動会に出席することについて、「公」と「私」という観点でどこまで議 論したのだろうか。そして全国障害者スポーツ大会関係者に、雅子さまが欠席せざるを得ない現状、逆に運動会を観戦する理由を意を尽くして説明したのだろう か。

 野村東宮大夫の言葉を聞く限り疑問が残る。「総合的に考えた結果」などといういい方はあまりに大ざっぱで、雅子さまが出席することも想定しながら準備に汗を流してきた大会関係者、障害者、ボランティアらに失礼であろう。

 雅子さまが療養に入って丸5年がたとうとしている。雅子さまへの批判、疑問は年々、強まっているように感じるが、今回の件を見て改めて思うのは、その原因を作っているのは詳しい説明をしない宮内庁であるということだ。

 病気で苦しむ雅子さまの行動は時にわかりにくく、誤解を生みやすい。それを補足するのが宮内庁なのに、「ご病気」「体調に波がある」で終わらせる ことが多い。それは雅子さまを孤立させることにほかならない。雅子さまと皇室の将来を考えるならば、宮内庁はもっと説明に心を砕く責任がある。(東京社会 部)

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