2008年10月22日水曜日

志野原生氏http://www005.upp.so-net.ne.jp/shigas/WELCOME.HTMより

中世の城


成東町に城址公園がある。海岸側が崖の、空堀と土塁に囲まれた、さほど広くはない四角い平地が南北に二カ所繋がっている。空堀が二重になっているやや狭い北の方が本丸、他方が二の丸と推定されている。
千葉氏の勢力圏に入る前からあった豪族の城で、室町戦国時代の城郭遺構であると立て看板は説明していた。千葉氏は頼朝旗揚げ以来の名門であったが、小田原の北条氏と共に滅亡している。家康の頃は城として現役であったと思われるが、やがて忘れ去られる。
千葉地方史の書物をめくっても成東城の記事は全く出てこない。10年ほど前に出た、名は忘れたが高校教師の研究会が出版した、遺跡総記に も、近くの土気城址は記載されているのに、成東城址はない。はっきりした遺跡だから気付かぬはずはない。よほどローカルな存在だったのであろう。
同じ中世の城でも、兵庫県の生駒銀山の北にある竹田城は、誠に壮大な石垣の山城であった。山の尾根に沿って何段にも石積みされた区画が並 び、最高部に天守閣がある。建造物は一切残っていないが、山名一族の覇権に対する意欲を窺わせる偉容を備えていた。中腹の駐車場までの道が細く険しくて運 転にふうふう云い、駐車場からの登山道も生憎湿っていて楽ではなかった。近世の名城の手本である。
関東は江戸城、小田原城を除くと石垣に乏しい土塁による城ばかりである。それと明治維新の時に全域が賊軍になったのが祟ったためか、破壊 が激しかった。ことに平地の川越城、忍城、関宿城、古河城などは、わずかに土塁のごく一部を残すのみと云った遺跡である。敗者を人々の記憶から抹殺すべ く、遺物を破壊するのは勝者の常だが、関東型土塁式城址の完全な奴を一つでいいから残して欲しかった。成東城などが発達した終局の姿であろうから。佐倉城 がやや面影を残す程度で、残念なことである。
成東町は九十九里浜に面した小さな外房の町である。しかし開発の手はこの町にも及んでいる。今は住宅街になったお城近くに、昔は砦や空堀 などの付属的な遺跡が残っていたという。本丸二の丸も開発軍に落城する寸前に、市が公園化したのであろう。崖側はギリギリまで削られ土が露出していた。城 址公園からは古い成東町の全景が眺望できる。旧市街はコンクリートの建物も屋根を傾斜させ、周囲との調和に気を使っている。一度訪れて良い場所である。

('98/01/21)


朝日新聞社説

減税財源―埋蔵金でも国債でも同じ

 たとえば、5千万円の借金を抱える家庭の引き出しから、100万円の預金通帳が思いがけず出てきた。

 借金返済に使えば、残高が減って将来の返済が少しは楽になる。それが望ましいが、諸物価が上がり、切りつめ生活も苦しくなった。この際、返済をさぼって生活費に回そうか……。

 2兆円規模の定額減税の財源に、いわゆる「埋蔵金」を使う。政府・与党が打ち出す景気対策の問題点は、家計に置き換えると分かりやすい。

 通帳にあたるのが「財政投融資特別会計」の金利変動準備金。政府系機関や独立行政法人に資金を貸し付ける特会だ。特会が調達する金利を、融資した金利が下回る「逆ザヤ」になった時の損失に備え、積み立ててきた。

 各種の特別会計にある準備金や積立金が、埋蔵金と呼ばれている。

 準備金が余ったら、毎年の予算には使わず国債の返済にあてる、と基本的に法律で定められている。家計の例から考えれば当然のことだ。

 それを減税などの財源に使う。国債には頼らないので、財政の健全性は保てる。与党はそう言いたいようだ。民主党も埋蔵金を活用する考えだ。

 だが、埋蔵金の流用も、国債の追加発行も、負担を将来へ先送りする点ではまったく変わらない。準備金を減税に流用しても、あるいは流用せず国債返済に使って減税のため国債を発行しても、国債残高は同じだからだ。

 たしかに、米国発の金融危機は深刻だ。景気は厳しさを増すだろう。いまから対策が必要だ。とはいえ、景気の悪化がどこまで進むか予断を許さない現段階で、薄く広く減税するのは愚策と言わざるを得ない。

 景気悪化で税収が大幅に落ちてきた。来年度は基礎年金への国庫負担を増やさねばならない。財政はさらに苦しくなる。財源は最適のタイミングで効果的に使わないといけない。

 また与党には建設国債ならいいとの考えがあるが、赤字国債と同じ借金であり、区別する意味はない。借金が多いだけ返済が増え、福祉や教育など必要な分野への支出が圧迫される。

 国民もその現実が分かっている。朝日新聞が今月実施した世論調査でも、「景気対策のため赤字国債を発行して大型の補正予算を編成すべきだ」という意見に 「反対」が56%。「賛成」24%の2倍以上だ。借金頼みのバラマキ財政のツケは、いずれ自らに跳ね返ってくると見抜いているのだ。

 先進国でいちばん悪化した財政のもとで景気対策をやり、社会保障も将来的に立て直していく。日本はこの険しく細い道を歩まざるをえない。

 「日本経済は全治3年」。総選挙を控えて、麻生首相は得意の言い方を使いながら、財源問題を避けて通ろうとしているように見える。


毎日新聞


社説

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社説:高齢者虐待 殺伐たる光景をなくそう

 高齢者虐待が増えている。厚生労働省の調査で、07年度は1万3335件にも上り、前年より712件増加したことが分かった。「これは氷山の一 角」という指摘もある。今後、高齢化が進めば虐待も増える可能性が高い。社会保障費の抑制策が続き、世の中がぎくしゃくしてきたことが虐待を生む土壌と なっている現実にも目を向けたい。

 虐待の実態をみると、今の日本社会が抱えているさまざまな問題の縮図が浮かび上がってくる。核家族化や近所付き合いの希薄化、家の中に人を入れた くないという風潮、隣人が何をしているのか知らないような人間関係、さらには貧困の問題など、複雑な要因が虐待の背景にある。先進国の中で最も速いスピー ドで高齢化が進み、急増する高齢者を見守る仕組み作りが間に合わなかったという現実もある。

 虐待の実態をみてみたい。大半は家庭内で起きている。被害者の約8割が女性、年齢は80歳代が4割を占めている。虐待しているのは息子が一番多く 41%、次いで夫が16%、娘が15%だった。虐待が起きている件数を世帯構成別にみると「未婚の子と同一世帯」が35%で最も多かった。

 虐待の種別・類型では、殴るなどの身体的虐待が64%で最も多く、暴言や無視などの心理的な虐待、介護の放棄や、経済的な虐待が上位を占めた。虐 待による死亡事例は27件あった。うち殺人が13件、介護放棄による死亡7件、心中4件、介護放棄以外の虐待による死亡が3件だった。

 06年に高齢者虐待防止法が施行された後、ほとんどの市町村の体制整備が進み、相談対応の窓口が設置された。しかし、窓口を作っただけで虐待を防 ぐことはできない。厚労省は「地域における虐待に対応する関係機関の調整の取り組みが低調」と指摘しているが、それが現実なのだろう。

 虐待は個別のケースによって理由が違う。そこで根絶するには、国と各地域の総合力が問われる。自治体に加え介護施設関係者や民生委員、医療機関や 警察、弁護士、さらには市民団体などがネットワークを作り個々のケースに応じて連携を密にして対応することが大事だ。虐待を回避するための一時的な避難所 として介護施設などに空き室を常に用意しておくなど、支援体制の整備も必要だ。

 相談・通報するのは介護支援専門員が圧倒的に多いので、この人たちを増やして高齢者のいる家庭を見守ることも有効な防止手段となるだろう。

 こうした対応策には費用がかかる。虐待防止の対策は、ますます重要度が高まってくる。国民的合意を作って必要な予算をつけて実行してほしい。

 気がつくと、目の前には殺伐とした光景が広がっている。「高齢者虐待がない社会」を目ざしたい。

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