2008年10月5日日曜日

志野原生氏http://www005upp.so-net.ne.jp/shigas/WELCOME.HTMより

和洋折衷


江戸東京博物館東京ゾーンで和洋折衷家屋を見た。大正期に実際に建てられた家屋の一部を移転したものという。サラリーマン、と云ってもかなり上級であろうが、の収入でも建てられる程度であった家と解説されていた。
洋室を見る。板床で大きめの食卓と椅子が並び二階に吹き抜けている。二階の板の間へは洋式の階段が付いている。大きさは隣の和室の倍はな かったと思う。移転されなかった部屋はサンルーム、子供部屋、娯楽室等だった。五室が一列に繋がった構造で、結構広い庭が付いていたようだ。
奈良新薬師寺と春日神社の間にある志賀直哉旧宅を見たことがある。彼がもう大家としての盛名を確立したあとの家だった。余談だが、彼の旧 跡は尾道でもお目に掛かっているが、そこはまだ若かりし頃の借家で純和風の質素な佇まいだったように記憶する。奈良の旧宅は和洋折衷であった。広くない庭 にかわいらしいプールがあった。洋室はサンルームになっていた。上流から中流の階級のモダンな建物と言った印象だった。彼はそれからも次々に家を代わる。
木造の洋室はいいものである。石造りの洋室よりはるかにいい。木目が、あるいは年代を経たものは木材の黒さが和やかな気分にしてくれる。 現代の、家族で住む新築住宅は殆どが和洋折衷であろうが、大正の頃に始まった折衷住宅と違うのは和室の比重がずいぶん軽くなった点である。
我が家は、建ってから20年以上を経た古いアパートである。3部屋の内一番いい位置つまり居室に相当する位置に和室がある。あとは洋室である。しかし最近のアパートを覗くと、和室は控え部屋か隠居部屋の扱いになっていて、南向きの一番の部屋は洋室の場合が多い。
数年前単身赴任した九州でのアパートは比較的新しい建物だったが、完全に洋式だった。今住んでいる町の独身者用の最近建設のアパートもま ず殆ど洋式である。生活感覚から、祖先から引き継いできたものが消えて行く一例に過ぎぬかも知れない。時代小説を頭でしか読めぬようになったら、矮小な体 格だけは現実に遺伝してゆく民族にとって未来が輝かしいと思えるか。いつもそんな点に疑問を持ちつつも、我々は洋式の便利さに、ついつい手を出しがちであ る。

('97/12/18)


近代銀座


江戸東京博物館東京ゾーンにガイドが定期的に説明をしてくれる展示室が一室ある。その展示室には鹿鳴館の模型、ニコライ堂の模型及び近代銀座の模型が収まっている。一番興味を引くのは身近な場所つまり近代銀座である。
映画撮影用のセットのようにヨーロッパ風の町並みが表通りを造っている。製作に5年を費やしたという。賑やかに人が行き交う。大半は和装である。人力車と乗り合い馬車が走っている。客の奪い合いで車夫と御者が喧嘩をする声が聞こえる。夕方になると次々とガス燈に灯がともる。
通りの両側は商店の庇が延びてアーケードを造っている。しかしアーケードは一カ所だけ通行止めになっている。そこは隣に合わせてアーケー ド用の柱は出ているが、よく見ると通路を遮る壁になっていて、脇に商品が積んである。商店が道路を商品の陳列に使うのは明らかに違法だが、今でも既得権の ように品を並べ立てて通行の邪魔をしている商店が我が町にもあちこちに見かけられる。小さい頃に見た風景が現代に繋がっている。だからこれは我が国の伝統 なんだろう。アーケードをその商店は同じ感覚で利用しているのだと思った。ましてや自分の費用で造った庇の下だから。和魂洋才という言葉がつい口から漏れ 出た。ちょっと本当の意味から外れるけれども。
明治政府が力を入れた欧化策としての銀座は表通りだけで、その裏町は昔ながらの生活であったという。説明が終わって聴衆が散ったので、ガ イドさんに聞いてみた。井戸が見えるが、掘り抜き井戸ですか。彼女は親切であった。あちこち確認に歩いてくれた。江戸時代からの上水から引いた井戸をまだ 使っていたという。幕府は倒れたが、上水配管は補修維持されていたらしい。
美術品には解説は要らない。だが民俗とか歴史とか自然の関連の展示には説明者を置かないと価値が半減する。関東にこの四月に出てきて幾つ も博物館を見て歩いたが、ガイドがもっともしっかりしていて、かつ人数も十分だったのは千葉県立中央博物館であった。週日でも部屋ごとに日に一度は解説を するし、質問にも良心的に応対してくれる。
江戸東京博物館の入場者数はさすが大東京のお膝元である。結構高い入場料を取るのにずいぶん入っている。しかしガードマンは各所に配置さ れているのに、ガイドは聞きたい位置に居らぬ。千葉は入場無料で、ガードマンは殆ど目に付かず、ガイドが手の届く位置に座っている。参考にされてはいか が。

('97/12/18)

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