2008年10月21日火曜日

毎日新聞HPより

社説:万引き 微罪で片付けられなくなった

 軽微な犯罪と思われがちな万引きの様相が変化している。かつては少年による犯行の比率が過半数を占めるため少年型犯罪といわれたが、約10年前から低減。昨年は約10万2500人の検挙者の約28%に落ち、成人型犯罪に変質した。また、91年以降、65歳以上の高齢者の犯行が急増し、昨年の高齢者10万人当たりの犯罪率は97人を突破、この20年で約3倍に増えた計算だ。

 高齢者には、子や孫に注目してほしいという幼稚な動機から犯行に及ぶ者も目立つが、警察庁などの分析では、家計の実収入との相関が指摘されてい る。消費税が5%に引き上げられた97年に検挙者数が前年比で約17%も増えたほか、00年の介護保険制度のスタート、03年からの医療費の負担増も犯罪 率の上昇につながっている模様だ。

 万引きする品物も食品やせっけん、タオルなどの生活用品が多く、生活が苦しくなって犯行に走る高齢者が増えているらしい。経済情勢が混迷する折、犯行の未然防止に福祉の観点からのきめ細かなケアが求められていると言えそうだ。

 一方、比率は減ったというものの、少年による犯行では組織化、巧妙化が進んでいる。警備員を引きつけるおとり役、見張り役、盗品を受け取る運び役 などの役割を分担し、巧妙な犯行を繰り返す少年グループの摘発も相次ぐ。漫画本を一度に10冊、20冊とまとめて万引きし、古書店などに売却を図る少年も 少なくない。出来心どころか、金目当ての計画的な犯行が横行している。被害も甚大になり、届け出も増加しているのが実情だ。

 規範意識や罪悪感の低下にも深刻なものがある。NPO法人の全国万引犯罪防止機構が一昨年、全国の小中高校生を対象に実施した意識調査では、万引 きを「絶対にやってはいけないこと」と考えている児童・生徒は小学校では95%を超すが、高学年になるに従って低減。中学生は約83%、高校生では約 81%となり、高校生の約16%は「やってはいけないが、大きな問題ではない」と回答した。高校生の約14%には友人から万引きの誘いを受けた経験がある という。

 万引きを軽視する保護者も少なくなく、警察から連絡を受けた母親が盗品を買い取れば盗みにならないと主張したり、補導は行き過ぎだと警察官に食ってかかるケースも増えている。

 06年の刑法改正で窃盗罪に懲役刑に加えて罰金刑が導入され、従来は起訴猶予処分となることが多かった万引きを処罰し、再犯防止を図ることにした が、何よりも幼少時からのしつけと教育でモラルを確立させることが重要だ。万引きは万罪のもと。犯行を見とがめられた容疑者が殺傷事件を起こしたり、逃走 中に交通事故にあったりもしている。厳正に対処し、撲滅を期したい。

毎日新聞 2008年10月20日 東京朝刊

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